2016年台南地震(台湾)

纐纈一起・小林広明・司宏俊・Loic VIENS・Hongqi DIAO・三宅弘恵
東京大学地震研究所・情報学環
最新更新:2016年2月28日
作成:2016年2月7日


目次

背景にあるテクトニクス
今回の地震の震源断層
震源インバージョンの結果
台南市内の強震記録と建物被害


背景にあるテクトニクス

瀬野(1994)によれば,台湾付近ではフィリピン海プレートとユーラシアプレートが相互に相対運動しており,フィリピン海プレート側から見ればユーラシアプレートに向かって北西に年間約7 cmの速度で動いている.その結果,台湾の北東にある琉球海溝ではフィリピン海プレートが沈み込んでいるのに対して,南東にあるルソントラフではユーラシアプレートがフィリピン海プレートに衝突しながら,その下側に入り込んで(underthrustして)いるという状態にある(図1). そして,この相対運動による歪みは,その半分が台湾陸域の西部山麓帯と台東縦谷の活動で解消され,残りの半分は東海岸南部沖の地震活動で解消される.2016年2月6日の地震は,西部山麓帯の台南地域で発生した.



図1.台湾付近のテクトニクスの模式図(Angelier, 1986; 瀬野, 1994).


今回の地震の震源断層

台湾中央気象局が決めた今回の地震の震源(破壊開始点)と翌日までの大きめの余震,及びKikuchi and Kanamoriの方法による点震源解析で得られたメカニズム解に基づいて,図2黒四角の震源断層を設定した.


図2.本震破壊開始点(赤星印)・翌日までの余震(橙星印)の分布とメカニズム解(左上方),及びそれらから推定された震源断層(黒四角).灰四角は台南市政府を表す.

震源インバージョンの結果

遠地実体波をデータとしてKikuchi and Kanamoriの方法により震源インバージョンを行った.その結果,Mw(モーメントマグニチュード)6.4の震源過程モデルが得られた.このモデルによるすべり分布(最大すべり1.8 m)を,翌日までの余震などに重ね描いたものが図3である.断層破壊の進展は台南市に向かう方向がやや優勢である.



図3.震源インバージョンによる断層面上のすべり分布(矢印とグレイスケール).破壊開始点・余震は図2に同じ.灰四角は台南市政府を表す.

台南市内の強震記録と建物被害

その後,P-alertと呼ばれる地震早期警報システムのために展開されている観測点(図4左)で得られた強震記録が公開された.これらのうち,倒壊現場に近いW21B観測点での速度波形を見ると,その東西成分に振幅が100 cm/sに近い長周期パルスが現れている(図5左).波形全体のフーリエスペクトル(図5右)からは,長周期パルスが1秒から4秒程度の卓越周期を持っていることが見てとれる.一方,倒壊して100名以上の死者を出した建物(図4右)は16階建てであるから,換算式T=(0.049∼0.082)N(Nは階数; 日本建築学会, 2000)より固有周期は0.8から1.3秒程度であり,手抜き工事などで長周期化している可能性を考えれば,このパルスが大きな影響を与えたであろう.実際,この建物は東南東ー西北西に延びる國光五街に沿って倒壊した.
なお,図3の震源モデルの断層破壊は西向きに伝播している.この破壊伝播方向にある台南市内の観測点では長周期パルスが発生している(図6左)のに対して,破壊伝播に垂直な方向にある観測点では長周期パルスが見られない(図6右).従って,長周期パルスは断層破壊の伝播に関連する現象であることに間違いないと思われるが,この点の解明に関わる解析は現在,進めているところである.


図4.左:P-alertの観測点(三角)と倒壊ビル(白四角).本震破壊開始点(赤星印)と震源断層(黒四角)は図2や3と同じ.右:倒壊前の建物(赤楕円)の衛星画像(Google Map).


図5.左:W21B観測点での速度波形.右:そのフーリエスペクトル.


図6.左:震源断層西側の観測点(図4左の橙色三角)における速度波形の東西成分.右:震源断層北側の観測点(図4左の黄色三角)における速度波形の東西成分.