東京大学地震研究所 | |
地震火山災害部門・地球計測部門 | |
2004年11月11日 | |
2005年10月31日修正 |
諸般の事情で三週間近くの遅れになってしまいましたが、2004年新潟県中越地 震の強震動と震源過程について現状をご報告します。 三週間の間に小千谷市、川口町で調査・観測させていただく機会がありました ので、その成果も反映させました。
震源過程について、再解析を行いその結果を論文としてまとめました。下記からダウンロードしてご覧下さい(2005年10月)
新潟県中越地震のMwには6.5クラス(6.4:USGS, 6.6:F-net, 6.6:山中)が与えら れているが、このクラスの地震としては異例に強い地震動が震源域周辺で観測 された。 図1では観測記録の最大加速度値(PGA)が断層最短距離でプロットされ、司・翠 川(1999)による距離減衰式(Mw 6.6, 震源深さ13kmの地殻内地震のもの)と比較 されている。 断層モデルとしては山中によるものを仮定、K-NET, KiK-net地表, JMA震度計 による強震記録を利用した(観測点分布図)。 特異に強い地震動(ここでは「極大地震動」と呼ぶ)は主に断層面上辺より上盤 側で観測されているが(図1の○)、アスペリティに近 接することによる上盤効果(Abrahamson and Somerville, 1996によれば Northridge地震で約1.4倍。図1の灰色曲線)を考慮しても、これら極大地震動 は特異に大きい。 同様の現象は2003年宮城県北部地震にも認められるので、地形的に明瞭でない 断層が引き起こす地震に共通の性質である可能性がある。 (この項は主に三宅弘恵による)
図1. 観測された最大加速度値と司・翠川(1999)による距離減衰式の比較。
気象庁公認機器による観測としては史上初めて、計測震度7が川口町役場に設 置された自治体震度計により観測された。 また、非公認機器(K-NET強震計)ではあるが、小千谷市土川でも計測震度7相当 の強震動が記録されている(同様の非公認計測震度7は2000年鳥取県西部地震 で例がある)。 川口町の波形記録は機器障害のため復元中とのことで詳細は不明であるが、当 該震度計のハードコピーログによると、1722.0galの最大加速度時(10月23日 17:56:06.8)、800galが0.3秒間、250galが4.2秒間継続し、南北・東西・上下 成分がそれぞれ周期1.0秒・1.3秒・0.9秒で揺れたとなっている。 リアルタイムの簡便な計測値であるので即断は危険であるが、これらの数値か ら、破壊力のある周期1, 2秒程度の成分を多く含んだ、パルス状の強震動波形 であったことが想像される。 また、境・他により報告された当地の 被害の状況を 勘案すれば、川口町は旧気象庁震度階(いわゆる体感震度)の7に十分相当する 強震動に見舞われたと考えるべきであろう。
一方、小千谷市内で参考計測震度7となったK-NET強震計(小千谷市土川)の記 録を、約1 km離れて設置されている気象庁震度計(小千谷市城内)での記録 (震度6強)と比較した(図2). K-NET強震記録では□で示した部分に、地盤の非線形 化の影響が強く現れているのに対し、震度計記録ではこの部分 □でそのような傾向は見られない。 この部分を除くと両者は比較的よく似ているので、計測震度の違いの主因は、 □の中の非常に鋭いピークを持った波形にあると考 えられる。 波形は通常の正弦波を重ね合わせたようなものではなく、内側にえぐれたよう な形をしている。 このような波形は地盤の非線形化のなかでも「サイクリック・モビリティ」と 呼ばれる状態になったときに特徴的に観測されるものであるので(1993年釧路 沖地震時の釧路港、1995年兵庫県南部地震時の鷹取駅などで観測)、そうした状 態になりやすい地盤であったか否かが計測震度7と6強の別れ目であったと想 像される。 (この項は主に田中康久による)
図2. 小千谷市内のK-NET強震計(下)および気象庁震度計(上)の記録の比較。
再解析結果を行いました。本震のすべり分布は下記のものと異なっています.解析上の主な変更は、
1.震源過程解析に先立ち、震源再決定を実施。JMA一元化震源よりも北西側に震央が移動。
それを使って断層面を設定。
2.解析に使用した観測点を変更。速度構造のチューニングを再度実施。
3.M6.0以上の地震について全て解析を実施。
です。
論文は、Geophysical Research Letters, 32, doi:10.1029/2005GL023588 に掲載されます。
結果については、上記の論文(http://www.agu.org/pubs/crossref/2005/2005GL023588.shtml)
またはこちらのファイルをご覧下さい。
(Copyright 2005 American Geophysical Union. Further reproduction or electronic distribution is not permitted. )
この地震は大きな規模の余震が非常に多く、M≧6.0の余震だけで も表1に示す4件が発生した。 これらのうち、本震および震度6強を観測した2余震の震源過程を解析した。
1 | 本震 | 10/23 17:56 | M6.8 | 最大震度:7 |
2 | 余震1 | 10/23 18:03 | M6.3 | 最大震度:5+ |
3 | 余震2 | 10/23 18:11 | M6.0 | 最大震度:6+ |
4 | 余震3 | 10/23 18:34 | M6.5 | 最大震度:6+ |
5 | 余震4 | 10/27 10:40 | M6.1 | 最大震度:6- |
図1. 表1の地震の震央と解析に利用した観測点. 解析した地震の震央を塗りつぶした。
本震(図1の地震1)については,まずIRIS-DMSより収集した遠地波形(P波)を使
いメカニズムと大まかなすべり分布を求め,それをもとに断層モデル(図2
の赤の面)を設定した。
余震2(図1の地震3)の解析では,F-netによるメカニズムを採用し,2つある
断層面の両方で破壊開始点の深さを変えてインバージョンを行った.
その結果,南東側に傾斜した断層面を採用した場合に残差が小さくなり、
これは本震の断層面とほぼ共役の関係にある(図2の緑の面)。
余震3(最大余震,図1の地震4)の解析でも,メカニズムはF-netのものを採用
し,解析中に断層面を若干修正した.
この面は本震断層面とほぼ平行だが深い位置にあって,異なる断層面である
(図2の青の面).
なお、NHK特集では余震2に対して本震断層面に一致する北西落ちの断層面を
採用した結果を示した。
図2.解析した地震の断層面(南西方向からの鳥瞰図).
赤:本震,緑:余震2,青:余震3(最大余震).
本震の強震波形に対してインバージョンを実行し、その結果のすべり分布を 地表面に投影したものを図3に示す(1.1×1019Nm, Mw 6.6; 最大すべり 1.6m).
図3. 地表面に投影した本震のすべり分布. ●は本震後24時間以内のM4以上の余震(気象庁による)。 |
観測波形と理論波形の一致は比較的良好である. 破壊開始点付近で大きなすべりを生じた後に断層浅部に破壊が伝播し、もう一 つの大きなすべりを生じたように見える. 断層面の北側角に見られる小さなすべりは解析上の誤差の可能性がある.
続いて余震2のすべり分布を地表面に投影した ものを図4に示す(5.4×1017Nm, Mw 5.8; 最大すべり 0.35m).図4. 地表面に投影した余震2のすべり分布. ●は本震後24時間以内のM4以上の震央(気象庁による) |
さらに余震3(最大余震)のすべり分布を地表面に投影した ものを図5に示す(3.0×1018Nm, Mw 6.3; 最大すべり 0.85m).
図5.地表面に投影した余震3(最大余震)のすべり分布. ●は本震後24時間以内のM4以上の震央(気象庁による) |
本震と余震3は平行な2枚の断層面を構成し、余震2は本震断層面と共役な断 層面上で発生したと現状では考えられる。 震源域にはこのように複数の断層が複雑に存在しており,それらが影響し合っ て余震活動を続けていると考えることもできる. 震源域の西に位置するK-NET観測点では直達S波の後に大振幅の後続 波が長く続いているが、理論波形でこれを完全に再現することはできていない。 詳細な震源過程の把握にはこれら観測点の波形記録が不可欠であるが,そのた めには正確な地下構造の把握が必要である. 今後,これらについて検討を行いながら,他の余震の解析や上記の地震の再解 析を進める必要がある.