東京大学地震研究所 | |
強震動グループ | |
2005年03月21日 | |
2005年03月23日 | |
2005年03月27日 | |
2005年03月31日 | |
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図1aに示すK-NET, KiK-net観測点の観測記録を積分して速度波形とし、 0.05-0.5 Hz のバンドパスフィルタ、2 Hzリサンプリングを行って、 P 波到着前1 秒からの30秒間を使用した。 断層面モデル(図1b)は九州大学の本震・余震分布と国土地理院の断層モデルを 参考に設定し(走向123°, 傾斜87°, すべり角-1°)、4 km四方の小断層 8 x 7個に分割した。 破壊開始点は33.75°N, 130.16°E, 深さ 14.0 kmに置いた。 グリーン関数計算のための構造モデルは、Ide (1999)によるモデルに堆積層を 乗せたものを使用した。インバージョンはYoshida et al. (1996) の手法によ り、タイムウィンドウ先頭の伝播速度は3.1 km/sが最良の解を与えた。 また、スムージングの度合いはABICにより決定した。
(a) | (b) |
図1. (a) 使用した観測点。三角印が K-NET、逆三角印が KiK-net の観測点を示す。(b) 設定した断層面の水平投影図。赤色の星印は本 震、黄色の丸印は余震の震央を示す(九州大学の決定による)。太い黒線は断 層面の上端、細い線は各小断層、青い十字は各小断層の中央に置いた点震源の 位置。
図2. 求められたすべり分布。矢印は南西側の岩盤がずれ た方向を示す。黒い太線は断層面の上端を示す。
まず遠地実体波を解析して、その解から走向120°、傾斜87°、すべり角 −2°を決定した。 次に、震源域周辺のKiK-net, K-NET観測点(図3左)で得られた強震記録を用い て、断層面上のすべり分布をIde et al. (1996)によるインバージョン法で 求めた。 大きなすべりの領域(アスペリティ)は主に破壊開始点の南東側で発生しており、 この南東方向の破壊伝播が下記図4のディレクティビティ効果をもたらした と考えられる。 地震モーメントは1.1 x 1019 Nm(Mw 6.6)。 当初のモデルではアスペリティが破壊開始点と同じような深さにあったが、 浅野・ 岩田 (2005)にならい、川瀬・他(2003)の構造モデルを採用する ことにより、アスペリティは浅い部分に移動した。 波形の一致はモデル1より良好であるが、 その分、すべり分布は複雑で北西側の深い部分にも多少のすべりがあるモデル になっている。 (呉長江・纐纈一起による)
図3. 強震記録解析に用いた観測点の分布(左)と 得られた南西側のすべり分布(右)。★は破壊開始点。
福岡県西方沖地震の震源断層は、震源過程がそれほど複雑でない横ずれ断層だっ たと予想されるので、断層面の延長方向で断層に直交する方向の強震動が大き く増幅され、その振動周期が長くなる効果、いわゆるディレクティビティ (指向性)効果が現れていた可能性が高い。 図4では、余震域で示される震源断層の南東方向の延長線上にある観測点 FKO009で、断層直交方向(上段)の速度記録が明瞭に振幅が大きく、振動の周期 が長い。 一方、北西方向の延長線上には、100km程度離れた対馬の観測点NGS022まで観 測点は存在せず、そこでは断層直交方向の増幅は明瞭でない。 したがって、断層破壊は破壊開始点から主に南東方向に伝播し、その方向に大 きなすべりが発生した可能性が高い。 (三宅弘恵・纐纈一起による)
図4. 強震速度記録(上段:断層直交成分、下段:断層平行成分) に現れたディレクティビティ効果。本震、余震の震央は九大による。
西南日本の内陸に近いM7級の地震なので、2000年鳥取県西部地震と同程度の長 周期地震動(表面波)の発達が見られた。 下図はその伝播の様子を、K-NETとKiK-netの波形記録を用いて作成した地震動 のスナップショットで示す。 長周期地震動は地震後148秒で大阪平野に達し、その揺れが243秒後にもまだ続 いていることが読み取れる。詳細は こちらを参照。 (古村孝志による)
図5. 長周期地震動(表面波)の伝播の様子を示すスナップショット。 秒数は地震発生後の経過時間。
3月23〜25日にかけて以下の地点に強震計SMAR-6A3Pを設置し、26〜27日に作動 確認と一部データの回収を行った。 また、九大人間環境学研究院・川瀬研究室による福岡市震度情報ネットワーク の波形記録回収に協力した。 (坂上実・田中康久・三宅弘恵・纐纈一起による)
観測点 | 住所 | 観測開始日 |
福岡市消防本部 | 福岡市中央区舞鶴3-9-7 | 3月24日 |
福岡市東消防署 | 福岡市東区東浜1-2-29 | 3月24日 |
志賀島小学校 | 福岡市東区大字志賀島1566-1 | 3月24日 |
玄界島漁協支所 | 福岡市西区玄界島 | 3月25日 |
玄界島保育園 | 福岡市西区玄界島 | 3月25日 |
玄界島西公園 | 福岡市西区玄界島 | 3月25日 |
玄界島学校職員寮 | 福岡市西区玄界島 | 3月25日 |
玄界島モノレール | 福岡市西区玄界島 | 3月25日 |
図6. 玄界島の観測点▲。背景は国土地理院の正射写真図。
3月24〜25日に、本震時に計測震度6弱を観測した地点を中心に、以下の観測 点周辺の被害を調査した。
調査地点 | 本震震度 | 住所 | 調査日 |
福岡市東消防署 | 6弱 | 福岡市東区東浜1-2-29 | 3月24日 |
K-NET久留米 | 5強* | 久留米市小森野町2551-1 | 3月24日 |
みやき町役場 | 6弱 | 佐賀県みやき町北茂安 | 3月24日 |
福岡市消防本部 | 6弱 | 福岡市中央区舞鶴3-9-7 | 3月25日 |
K-NET福岡 | 6弱* | 福岡市中央区天神5-1-23 | 3月25日 |
前原市役所 | 6弱 | 前原市前原西1-1-1 | 3月25日 |
K-NET前原 | 5強* | 前原市大字前原1303-1 | 3月25日 |
玄界島 | ? | 福岡市西区玄界島 | 3月25日 |
計測震度導入後、震度6弱が観測された地点周辺で大きな被害が現れない傾向 が続いているが、福岡県西方沖地震でも同様の傾向が確認された。 そうした中で玄界島は例外的に大きな被害を受けており、 応急被災度判定で225件中127件が危険と判定された状況 (内閣府防災担当)をみれば、本震時は震度7の揺れに見舞 われたとしてもおかしくない。 本震時には震度計が設置されていなかったのでこのことを確認することはでき ないが、上記の震源過程モデルで玄界島付近の浅い部分で大きなすべりが復元 されたことが間接的に裏付けているということもできる。
しかし、被災度判定危険となった家屋では、その足元の地盤が崩壊していた り,上部の崖が崩れているケースが多く、建物の破壊パターンも純粋に地震の ゆれで破壊された場合とは異なっているので(図7左)、本震の揺れ自体が震度 7であったとはやや考えづらい。 一方、地盤の崩壊が見られない港周辺では屋根瓦の被害が中心であるが、その 被害率は非常に高く(図7右)、計測震度6強だった2003年宮城県北部地震の矢 本町付近よりも多い印象を受けた。 また、今回の地震でも九州本土の震度6弱地点より当然被害率は高いので、玄 界島の本震時の揺れは震度6強相当であったとするのが、現時点では妥当であ るように思える。 詳細は こちらを参照。 (境有紀<筑波大>・纐纈一起・三宅弘恵による)