強震波形インバージョンによる2016年鳥取県中部の地震の震源過程(暫定版)

小林広明・纐纈一起・三宅弘恵
東京大学地震研究所・情報学環
最新更新:2016年10月24日
作成:2016年10月21日


2016年鳥取県中部の地震の震源過程を推定するため,Yoshida et al. (1996) および Hikima and Koketsu (2005) の手法による強震波形インバージョンを行った.本震位置はHi-net自動処理震源を用い,余震分布(防災科研による速報,1.5時間後まで)を参考に長さ19.5km×幅18 km,F-net解を参考に走向162度,傾斜88度の西傾斜の断層面を設定した.すべり角はF-net解がほぼ純粋な横ずれであることを考えて、0度±45度の範囲に求まるものとした.断層面は長さ1.5km×幅1.5 km の小断層に分割し,継続時間0.5秒のランプ関数6個から成る震源時間関数を設けた.破壊伝播速度は震源付近のS波速度の約80%である2.7 km/sとした.波形インバージョンには,図1に示す防災科学技術研究所のK-NETの地表加速度記録を積分し,周期2.5~50秒のバンドパスフィルターをかけた速度波形を14観測点42成分用いた.理論的グリーン関数の計算に用いる各観測点直下の一次元地下構造は,地震調査研究推進本部による長周期地震動予測地図2012年試作版の全国1次地下構造モデルに準拠した.



図1.波形インバージョンに使用した強震観測点分布図.水色三角が強震観測点, 赤星は本震震央, 青線は仮定した断層面を示す.黄色丸印は1.5時間後までの余震(防災科研による速報).

推定されたすべり分布を図2に示す.震源付近にほぼ純粋な横ずれ成分を持つ,大きなすべりが求まった.この他,北側にすべりが広がっており,こちら側に破壊が進んだものと考えられる.図3に観測波形と合成波形の比較を示す.観測波形は概ね良好に再現できているが,一部の観測点は改善の余地があり,速度構造モデルの調整の必要性が示唆される.推定された地震モーメントは 2.1×1018Nm (Mw 6.1), 最大すべり量は1.3mとなった.


図2.推定されたすべり分布.黒星は震源位置を示す.コンター間隔は0.2m.



図3.観測波形(赤線)と合成波形(黒線)の比較.