2018年北海道胆振東部地震の震源過程(暫定版)

小林広明・纐纈一起・三宅弘恵
東京大学地震研究所・情報学環
最新更新:2018年12月10日
作成:2018年12月07日


2018年北海道胆振東部地震の震源過程を推定するため,Yoshida et al. (1996) および Hikima and Koketsu (2005) の手法による強震動および測地データの ジョイントインバージョンを行った.

本震および余震の位置はDouble Difference法 (Waldhauser and Ellsworth, 2000)を用いて再決定した(速度構造モデルは 上野・他(2002)によるJMA2001). その余震分布を参考に,長さ21km×幅24km,走向350度, 傾斜70度の東傾斜の主断層面を設定するとともに, 破壊開始点付近に長さ21km×幅9km,走向170度,傾斜60度の副断層面を設定した (図1). すべり角は,CMT解が概ね逆断層であることを考えて,90度±45度の範囲に求まるものとした.断層面は長さ3km×幅3kmの小断層に分割し,継続時間1秒のランプ関数5個からなるすべり時間関数を設けた. 破壊伝播速度は3.0km/sとした.

一次元速度構造モデルとしては, 全国一次地下構造モデルより震源と各観測点の間の平均的な構造を抽出し, Kohketsu (1985)の手法による強震動の波形計算に使用した. また,震央直下の一次元速度構造モデルを全国一次地下構造モデルより抽出し, Zhu and Rivera (2002) の手法による地殻変動の計算において全観測点に対して使用した. 強震データには加速度記録を積分し,0.05~0.4Hzのバンドパスフィルタをか けた速度波形を10観測点29成分を用いた.測地データは水平変動のみ12点分である.


図1.Double Difference法で再決定した本震と余震の分布と断層モデル.

推定されたすべり分布を図2に示す. 図3では,それによる強震動の合成波形と観測波形を比較した. 2秒間程度の初期破壊がまず副断層面であり,その後, 東傾斜の主断層面に破壊が移り,大きくすべったことがわかった. 最大すべりは2.3m,全体の地震モーメントは1.1×1019Nm (Mw 6.6)であった. 大すべり域の深さは20km~25km程度となった. これはCMT解などに比べ浅い. その原因の一つとしては,震源域は地殻が厚く, さらに低速度層が厚く存在しているため, CMT解が真値より深く決まっている可能性が考えられる.


図2.推定されたすべり分布.白星は破壊開始点の位置を示す.


図3.観測波形(赤線)と合成波形(黒線)の比較.