- 解析対象および解析方法
この地震は大きな規模の余震が非常に多く、M≧6.0の余震だけで
も表1に示す4件が発生した。
これらのうち、本震および震度6強を観測した2余震の震源過程を解析した。
1 |
本震 |
10/23 17:56 |
M6.8 |
最大震度:7 |
2 |
余震1 |
10/23 18:03 |
M6.3 |
最大震度:5+ |
3 |
余震2 |
10/23 18:11 |
M6.0 |
最大震度:6+ |
4 |
余震3 |
10/23 18:34 |
M6.5 |
最大震度:6+ |
5 |
余震4 |
10/27 10:40 |
M6.1 |
最大震度:6- |
表1. 本震およびM6.0以上の余震

図1. 表1の地震の震央と解析に利用した観測点.
解析した地震の震央を塗りつぶした。
解析方法は以下のとおり。
- 表層の影響の少ないKiK-net地中記録、その中でも孔底Vs≧1km/sの観測
点の記録を主に用い、KiK-net観測点のない西側ではK-NET(地表のみ)の記録も
利用した(図1)。
- 観測記録は0.02〜0.5Hzのフィルタをかけて積分し,速度波形として解析に
使用した.
- ほぼ全点で余震記録(10/23 18:57, Mw5.0)を使った速度構造のチューニン
グを行った。
- グリーン関数の計算には、Kohketsu (1985)によるreflectivity法に地中
地震計のための修正(Koketsu et al., 2004)を加えたコードを用いた.
- インバージョンにはYoshida et al. (1996)の方法を修正したものを使用
した.
- 断層面の設定
本震(図1の地震1)については,まずIRIS-DMSより収集した遠地波形(P波)を使
いメカニズムと大まかなすべり分布を求め,それをもとに断層モデル(図2
の赤の面)を設定した。
余震2(図1の地震3)の解析では,F-netによるメカニズムを採用し,2つある
断層面の両方で破壊開始点の深さを変えてインバージョンを行った.
その結果,南東側に傾斜した断層面を採用した場合に残差が小さくなり、
これは本震の断層面とほぼ共役の関係にある(図2の緑の面)。
余震3(最大余震,図1の地震4)の解析でも,メカニズムはF-netのものを採用
し,解析中に断層面を若干修正した.
この面は本震断層面とほぼ平行だが深い位置にあって,異なる断層面である
(図2の青の面).
なお、NHK特集では余震2に対して本震断層面に一致する北西落ちの断層面を
採用した結果を示した。

図2.解析した地震の断層面.地表面に投影したものと南西方向からの鳥瞰図.
赤:本震,緑:余震2,青:余震3(最大余震).
- インバージョン結果
本震の強震波形に対してインバージョンを実行し、その結果のすべり分布を図
3、それを水平面に投影したものを図4に示す.
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図3. 断層面上のすべり分布(本震)。 |
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図4. 表面に投影したすべり分布.
●は本震後24時間以内のM4以上の余震(気象庁による)。
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観測波形と理論波形の一致は比較的良好である.
破壊開始点付近で大きなすべりを生じた後に断層浅部に破壊が伝播しもう一
つの大きなすべりを生じたものを考えられる.断層面の北側角に見られる小さ
なすべりは解析上の誤差である可能性もあるので,今後更に検討が必要である.
続いて余震2の断層面上でのすべり分布は図5に示す.また,それを水平面に投影した
ものを図6に示す.
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図5. 断層面上のすべり分布(余震2) |
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図6. 地表面に投影したすべり分布.●は本震後24時間以内のM4以上の震央(気象庁による) |
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さらに余震3の断層面上でのすべり分布は図7に示す.また,それを水平面に投影した
ものを図8に示す.
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図7. 断層面上のすべり分布(余震3) |
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図8.地表面に投影したすべり分布.●は本震後24時間以内のM4以上の震央(気象庁による) |
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- 現状でのまとめ
本震と余震3は平行な2枚の断層面を構成し、余震2は本震断層面と共役な断
層面上で発生したと現状では考えられる。
震源域にはこのように複数の断層が複雑に存在しており,それらが影響し合っ
て余震活動を続けていると考えることもできる.
震源域の西に位置するK-NET観測点では直達S波の後に大振幅の後続
波が長く続いているが、理論波形でこれを完全に再現することはできていない。
詳細な震源過程の把握にはこれら観測点の波形記録が不可欠であるが,そのた
めには正確な地下構造の把握が必要である.
今後,これらについて検討を行いながら,他の余震の解析や上記の地震の再解
析を進める必要がある.