東京大学地震研究所 | |
強震動グループ | |
2007年07月17日 | |
2007年10月24日 |
1. 遠地実体波解析 |
2. 強震波形解析 |
3. 柏崎刈羽での観測波形と震源過程 |
日本地震学会2007年度秋季大会でのポスター発表と同じ内容です |
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Appendix. 震源過程(遠地波形解析)-暫定解析結果 |
2007年7月16日に発生した2007年新潟県中越沖地震(Mj 6.8)では多数の人的・物的被害が発生し,さらに震源域に位置する東京電力柏崎刈羽原子力発電所内の施設も被災した. これらの被害を生じさせた強震動の生成原因について考察し,また地震の発生機構について考えるためにも,この地震の震源過程を知ることは重要である. 本発表では,遠地,近地波形記録を用いた波形インバージョンにより震源過程の推定を試みた結果を示す. また,観測波形に見られる特徴的なパルスの生成位置についても考察を行った.
はじめに,IRIS-DMCから収集した遠地実体波記録(P波34点)を用いて点震源を仮定してメカニズム解を決定した. さらにこの結果をもとに断層面を設定して断層上でのすべり分布を推定した.このとき,観測波形と計算波形の残差が小さくなるように断層面の走向・傾斜を修正した. また,大きなすべりが堆積層内で生じないように,上端深さが4km程度以深になるように南東,北西に傾斜した2枚の断層面を設定し断層面の深さを変化させた解析を実施した. その結果,南東に傾斜した断層面を設定しその震源深さを9kmとした場合に残差が小さくなった.
どちらの断層面を仮定した場合でも,震源から南西方向に向かって大きなすべりが分布している.
解析に使用した観測点 | 点震源を仮定して求めた解 |
断層面上のすべり分布 (左:南東傾斜,右:北西傾斜の断層面) |
断層面の深さを変えた時の 残差の変化 |
次に,遠地実体波解析と同様の断層面を設定して,近地強震波形を用いてすべり分布を求めた. 強震波形は防災科研K-NETおよびKiK-netで観測された加速度波形に0.03〜0.5Hzのバンドパスフィルタをかけ積分した速度波形を用いた. さらに,柏崎刈羽原発(1号機,5号機)で観測された波形についても同様の処理を行い解析に使用した. グリーン関数を計算するための速度構造は,震源付近で発生した7月16日21:08のMj4.4の余震波形を用いた波形インバージョン(Hikima and Koketsu,2005)により観測点毎に水平構造成層構造を求めて使用した. 震源インバージョンはYoshida et al.(1996)を改良した方法により行った.
震源深さを変えながら解析を行ったところ,遠地実体波解析と同様に南東・北西傾斜の断層面ともに破壊開始点を9kmに設定したときに残差が小さくなった. しかし,傾斜方向による残差の違いは有意ではなく,この結果だけからどちらの断層面が最適かを判断することは難しい. どちらの傾斜方向を採用する場合でも,主要な破壊は破壊開始点よりも南西側にユニラテラル的に進展したと考えられる. これは遠地実体波解析と同様の結果であり余震分布とも調和的である.
解析に使用した観測点と速度構造の例
(震源は本震発生後1週間のM2以上の余震.気象庁一元化震源)
強震波形の解析による断層面上のすべり分布 (4×4kmの小断層. 左:南東傾斜,右:北西傾斜の断層面) どちらの解析でも震源より南に2〜3のアスペリティが存在する |
観測波形と計算波形の比較 (左:南東傾斜,右:北西傾斜の断層面) | |
波形の一致具合に大きな差はなく,この解析から断層の傾斜方向を判断するのは難しい. 一致度は十分ではなくグリーン関数を計算するための速度構造をさらに改良する必要がある. |
震源のごく近傍に位置する柏崎刈羽原発(KK)での観測波形のうち,特に基礎版上の波形は表層地盤の影響が小さく震源過程を考える上で重要である. これらの波形には2〜3の明瞭なパルスが見られ,震源インバージョンで得られたアスペリティに対応しているものと思われる. そこで,KK地点及び周辺の観測波形からパルスの到達時刻を読み取り,初動の到達時刻との差をデータとして破壊開始点に対する相対的な震源位置を決定した. その結果1つめのパルスの発生源は破壊開始点の南西に,3つめのパルスの発生源はKK地点の西北西方向の沖合に推定された. また,KK地点の観測波形のパーティクルモーションを見ると,パルス1は南北方向に震動しているのに対して,パルス3の震動方向は西北西を向いている. この地震のメカニズムは純粋な逆断層に近く,また観測されたパルスはSV波が卓越していると見なせば,これらの方向に発生源があることを示唆しており, 決定された震源の方向と矛盾しない.
震源インバージョンではグリーン関数の計算に用いた構造や仮定した断層面の誤差により求まったアスペリティの位置にもある程度の誤差が含まれてしまうため, 決定された震源とは完全には一致しないが,南東傾斜の断層面のすべり分布では求まったパルスの震源位置とアスペリティ位置とは比較的近い場所に位置するのに対して, 北西傾斜の結果では特に南部のアスペリティはKK地点の南西に位置するので決定された震源とは離れている.
震源に近い北部のアスペリティはどちらの断層面でもほぼ同じ位置に位置しているため両者を区別することは難しいが, 南部のアスペリティについては,相対震源決定結果やパーティクルモーションから推定される発生源の方向からは南東傾斜の結果得られたすべり分布の方が調和的である.
柏崎刈羽原発で観測された加速度波形(各地点上からNS, EW, UD成分)
赤線はP波初動,青色・桃色線はそれぞれパルス1・3の読み取り時刻を示す.
柏崎刈羽原発での地震計配置 (東京電力による) |
5号機,1号機でのパーティクルモーション (速度波形) 初動到達付近から2秒ごとにパーティクルモーションを表示. 黒丸はプロットの開始点を示す.青色,桃色線はそれぞれパルス1,3の震動方向を示す. パルス1は南北,パルス3は西北西方向に震動している. |
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相対震源決定により求まったパルス1(青色),パルス3(桃色)の発生源位置 それぞれの深さは9km,7.5kmに求まった.黒丸は計算に使用した観測点位置(一部). |
遠地実体波,近地強震波形を使った震源過程解析を行った結果,2007年新潟県中越沖地震は震源から南西方向に破壊が伝播し, 2つ以上のアスペリティが存在することがわかった.しかし,現段階ではこれらの解析のみから断層面の傾斜方向を特定することは難しく, 余震分布など他の結果を合わせて総合的に判断する必要がある. また,KK地点などの観測波形に特徴的に見られるパルスの発生源は,KK地点の北方と西北西〜西方向に位置することが示唆される.
解析には,K-NET,KiK-netの波形記録,気象庁一元化震源位置,地震研解析による震源位置を使用しました. また,柏崎刈羽原子力発電所での観測記録は東京電力(株)により公開されたものです.記して感謝致します.