2003年07月30日
2003年08月22日
2003年7月26日の一連の地震について,震源過程の暫定的な解析を行った. ここでは7時13分の本震の解析結果について示す. 震源(破壊開始点)は気象庁発表のもの,断層面は F-net CMT速報と 気象庁による余震分布 を参考に西落ち逆断層(走向:186°,傾斜:52°)と決めた. 波形記録を利用した観測点(KiK-net地中記録10点)と断層面の地表投影を図1 に示す.
図1.観測点および仮定した断層面.
図2に結果のすべり分布を示す(左が北,上が断層上端,上盤側のすべり)。
この結果によれば,破壊開始点★から北の浅い
方向に主に破壊が伝播して,浅部で大きなすべり(アスペリティ)を生じたと
考えられる.
全体の地震モーメントは3.96×1018Nm(Mw 6.3).
観測波形と理論波形の比較は別添
図A,図Bを参照.
遠地実体波の解析結果(
EIC地震学ノートNo.137)に比べると,得られた地震モーメントはやや大
きいが,この矛盾点は断層面の深さとして
東北大予知センターによる余震分布のものを採用すればほぼ解消される.
この余震分布は気象庁のものに比べて浅く決まっており,そのためそれを断層
面の深さとすれば,小さいモーメント(1.73×1018Nm,Mw 6.1)
でも同程度の地震動が得られることによる.
図2.得られた本震のすべり分布.
このすべり分布を地図上に投影して,気象庁による余震震央(7時13分〜16時 56分,M2以上)と重ね合わせたものが図3である. 北側及び南側,ふたつの余震群が見られるが,アスペリティはそれら中間の ギャップとなる領域の浅い部分,旭山撓曲の東側に位置している. 後述するように,今回の地震の被害は河南町広渕地区でもっともひどく,この地 区はアスペリティの直上に位置する.
図3.本震のすべり分布とその余震(7時13分〜16時56分,M2以上)の震央分布 (水平面に投影).
破壊開始点の震央はほぼ旭山撓曲に一致するが,数kmを越える深さがあり,さ らには断層面は52°で傾斜しているので,アスペリティ位置は撓曲からかなり 東にはずれる.
続いて0時13分の前震の解析結果を示す.
震源(破壊開始点)は気象庁発表のもの,断層面は
F-net CMT速報を元に同じく西落ち逆断層で走向209°,傾斜54°と決めた.
得られたすべり分布を地図上に投影して,気象庁による余震震央(0時13分〜
7時13分,M2以上)と重ね合わせたものを図4に示す.
破壊は南側浅部に進み,すべり20cm程度のアスペリティになっており,この
領域は本震(7時13分)の破壊開始点★付近に相当する.
全体の地震モーメントは4.15×1017Nm(Mw 5.7),
観測波形と理論波形の比較は別添
図C,図Dを参照.
この場合も
東北大予知センターによる余震分布を断層面の深さとすれば,
2.19×1017Nm(Mw 5.5)と遠地実体波の解析結果(
EIC地震学ノートNo.137)に近い地震モーメントとなる.
また,前述の本震では,その断層面の南半分を,この前震の断層面と一致させて
震源過程を求めることが可能であることが確認できた.
図4.前震のすべり分布とその余震(0時13分〜7時13分,M2以上)の震央分布 (水平面に投影).
さらに図5が最大余震のすべり分布(最大十数cm)である.
ここではすでに
東北大予知センターによる余震分布を断層面の深さとし,
走向153°,傾斜49°とした解析結果を示しており,得られた全体の地震モー
メントは1.13×1017Nm(Mw 5.3)となっている.
観測波形と理論波形の比較は別添
図E,図Fを参照.
図3, 4, 5を比較すれば,前震・本震・最大余震のすべり分布がほぼオーバー
ラップせず,棲み分けていることが見てとれる.
図5.最大余震のすべり分布とその後の余震(翌日まで,M2以上)の震央分布 (水平面に投影).
(ここまで,引間和人・纐纈一起)
今回の地震はM6クラスで震源域が小さく,K-NET観測網の観測点ギャップにちょ
うど収まってしまうため,震源域強震動については宮城県震度情報ネットワーク
の波形データ公開待ちの状態である.
公開がされ次第,報告を行う予定.
やや離れるが公開済みのK-NET古川・石巻の記録を,5月26日宮城県沖の地震と加
速度応答スペクトルで比較した(図6,広島大工学部・神野達夫氏による).
スペクトル特性は今回の本震と5月26日の地震でよく似ていることがわかる.
図6.本震・前震の記録と5月26日地震の記録の比較(加速度応答スペクトル).
なお,地震調査研究推進本部の緊急調査研究班(東大地震研・東北大災害制御セ ンター・東工大総合理工・京大防災研・大崎総研)により余震の強震観測が, 27日夜半から順次行われているので,これについても観測結果が整い次第報告す る予定. 強震計設置にあたっては鳴瀬町役場,矢本東小学校,南郷小学校,河南町母子健 康センターに便宜をはかっていただきました.
上記の余震強震観測の観測点設置と平行して,境有紀(筑波大機能工学系)を中 心に纐纈一起・坂上 実(東大地震研)で震度観測点周辺等の被害調査を行った. 観測点は前震・本震・最大余震で計測震度6強,6弱が報告されているものを中 心に選定したが,大きな被害のあった河南町広渕地区,同北村小学校なども調査 を行った. 調査結果を表1に示す. 項番は調査順,計測震度は前震・本震・最大余震の順,()内は参考値. なお,震度は観測されたその地点周辺の揺れの強さを示 すもので,たとえば町全体を代表するものではない. 周辺とはここでは半径200m程度以内を指す.
項番 | 名称 | 機関 | 計測震度 | 周辺の被害状況 |
---|---|---|---|---|
1 | 鳴瀬町役場 | 宮城県 | 6弱,6強,4 | 鳴瀬町役場の南西側に4, 50棟程度の木造家屋があったが,大きな被害を受けた 家屋は無く,軽微な被害として屋根瓦がずれたものが3棟. RC造建物に外観からわかる被害はない. その他にはブロック塀の被害,道路の陥没.電信柱の傾き. |
2 | 矢本町役場 | 宮城県 | 6弱,6強,4 | 中程度の被害を受けた建物が1棟(罹災調査では全壊となる可能性あり). 軽微な被害として屋根瓦がずれたものが非常に多数(瓦屋根家屋の半数近く). 矢本第一中学校北側校舎が中破,それ以外に外観でわかるRC造建物の被害はない. 被害レベルとしては5強相当か. その他にはブロック塀の被害,道路の陥没. |
3 | 石巻 | K-NET | ?,(5強),? | 特に被害なし. |
4 | 南郷町役場 | 宮城県 | 5強,6強,5強 | 町郊外に最近立てられた庁舎で半径200m以内に家屋は少ない. 約300m南西に大きな被害を受けて取り壊し中の家屋が1棟, その他数棟で屋根瓦のずれ. 約2kmほど南に大きな被害を受けた家屋が数棟. |
5 | 涌谷町新町 | 気象庁 | 5弱,6弱,5強 | 半径200m以内には家屋が300棟程度あり,瓦屋根の被害があったものが10数棟. 5/26の地震時より多い. |
6 | 小牛田町役場 | 宮城県 | 4,6弱,4 | 役場はほんの少し高台にある. 周辺に木造住宅は2, 300棟程度あるが,被害を受けた建物は見受けられない. ただし役場の北側の住宅地は比較的新しく,古い家屋はない. |
7 | 河南町広渕 | 震度計なし | 震度計のある河南町役場から約4km南. 国道108号線沿いを調査,全壊以上の被害を受けた家屋や商店多数. 大きな被害のRC造建物(公立深谷病院)あり. 被害の大きかった北村小学校も隣接地区. 被害レベルとしては6弱相当か. | |
8 | 河南町役場 | 宮城県 | 5弱,6弱,6弱 | 周辺に家屋50〜100棟,大きな被害を受けた家屋はなく,屋根瓦の被害が数棟. |
9 | 桃生町役場 | 宮城県 | 4,6弱,5弱 | 周辺に家屋約50棟,特に被害なし. |
10 | 鹿島台町役場 | 宮城県 | 6弱,6弱,− | 周辺には家屋・商店が数十棟,屋根瓦の被害以外大きな被害は見られない. しかしRC造の町役場と隣接する鹿島台国保病院が大きな被害(盆地端部の一段低 い地形・地盤が影響か).役場向かいの鹿島台小学校も柱のせん断破壊とのこと. |
11 | 古川 | K-NET | ?,(5強),? | 消防署敷地内.特に被害なし. |
各町役場には便宜をはかっていただきました.
なお,被害調査の詳細については
こちら をご覧ください.