2003年05月31日
2003年06月06日
2003年06月26日
震源(破壊開始点)はHi-netの速報値,断層面は EIC地震学ノート No.135 を参考に南北走向の高角逆断層(走向:190°,傾斜:72°)と決めた. 波形記録を利用した観測点(KiK-net地中記録13点)と断層面の地表投影を図1 に示す.
図1.観測点および仮定した断層面.
図2に結果のすべり分布を示す(左が北,上が断層上端,上盤側のすべり)。 この結果によれば,破壊開始点★付近に1.5m程度 のすべりを生じ,そこから北の方向に主に破壊が伝播して,やや深い部分に最大 すべり約2mのアスペリティを生じたと考えられる. 全体の地震モーメントは5.2×1019Nm(Mw 7.1). 断層面積を900km2とすると平均すべり量0.64m,応力降下は4.5MPaと なる. 観測波形と理論波形の比較は別添 図Aを参照. 全般に東西成分の一致がやや悪く,今後,断層メカニズムのチューニングを行う予定. また,北上川沿いの平野部観測点では表面波部分について再検討が必要.
図2.得られたすべり分布.
(ここまで,引間和人・纐纈一起)
今回の地震は太平洋プレート内部の深さ約70kmで発生したスラブ内地震であっ たので,同じくスラブ内地震であった1993年釧路沖地震,および内陸地殻内地 震であった1995年兵庫県南部地震と,地震動を比較した(図1.防災科技研 KiK-net,気象庁による観測). 兵庫県南部地震に比べスラブ内地震の地震動は揺れの周期が短く,継続時間が やや長い.さらに今回の地震と釧路沖地震を比較すると,今回の地震の方が一 層短周期であることがわかる.
図1.いろいろな地震の地震動の比較(速度記録).
しかし,同じ陸前高田(防災科技研KiK-net)でも地表と地中の記録を比較す ると(図2上・中段),地中の記録では釧路沖地震を越えるような著しい短周 期の傾向は見えなくなる. したがって,今回の地震による極短周期の地震動はスラブ内地震の特徴だけで なく,三陸・北上地域の地盤の特徴(北上山地の固い岩盤の上に薄い表層があっ て短周期地震動を強く増幅する)が重なって起きたと 考えられる*. たとえば北上川に沿った堆積層の厚い地域にある水沢(防災科技研K-NET)では, こうした短周期の著しい増幅は起こらず,地表記録も陸前高田の地中記録に似 たものになっている(図2下段).
* 防災科技研・青井真氏の地震学会強震動委員会資料を参考にした.
図2.陸前高田(地表・地中)と水沢の地震動の比較(速度記録).
項番 | 名称 | 機関 | 計測震度 | 周辺の被害状況 |
---|---|---|---|---|
1 | 小野田 | KiK-net | 5.51 (6弱) | 近くの体育館の外壁が剥落. 3km程度離れた所に墓石転倒率35.4%(33/93)の墓地あり. ただし途中の別の墓地では転倒がほとんどなし. 屋根瓦の被害が散見. |
2 | 涌谷町新町 | 気象庁 | 6弱 | 特に被害なし.離れた役場の入口土間にひび割れ. |
3 | 石巻市泉町 | 気象庁 | 6弱 | 旧測候所敷地内. 特に被害なし. |
4 | 石巻 | K-NET | 5.32 (5強) | 大街道小学校構内. 地震時窓ガラス22枚破損とのこと.そのほか特に被害なし. 地震計は1m程度の盛土の上. |
5 | 牡鹿 | K-NET | 6.19 (6強) | 敷地は台地(高さ15m程度)上の中学校で地震計はその縁. 地震計台がやや傾斜. 地震時テレビの落下はあったが窓ガラスの破損なしとのこと. そのほか特に被害なし. |
6 | 歌津 | K-NET | 5.43 (5強) | 敷地は台地上で地震計は端に近い. 特に被害なし. |
7 | 気仙沼 | K-NET | 5.30 (5強) | 気仙沼小学校構内. 地震計近く,敷地外の石垣に損傷があった模様. そのほか特に被害なし. |
8 | 陸前高田 | KiK-net | 5.44 (5強) | 台地の上. 特に被害なし. |
9 | 大船渡市大船渡町 | 気象庁 | 6弱 | 大船渡測候所の地震計台上. 特に被害なし. |
10 | 住田 | KiK-net | 5.89 (6弱) | 近くの畜産研究所の牛舎でブレースのボルトが複数破損. そのほか特に被害なし. |
11 | 遠野 | K-NET | 5.21 (5強) | 消防署敷地内.特に被害なし. |
12 | 花巻南 | KiK-net | 5.45 (5強) | 水田地帯の中,消防団建物に隣接. 特に被害なし.数百m離れて屋根瓦の被害が一軒. |
13 | 玉山 | KiK-net | 5.59 (6弱) | 小学校分校の敷地内. 特に被害なし. |
14 | 栗駒町岩ヶ崎 | 気象庁 | 6弱 | みちのく伝創館という大きな施設の敷地内. 特に被害なし. |
今回の地震で最大の構造物被害は,東北新幹線盛岡・水沢江刺間の 高架橋被害である. その中でも岩手県石鳥谷町内の第5猪鼻高架橋では約10本がせん断破 壊を受けたが,特に他よりやや短い 橋桁連結部の橋脚が大きな被害を受けた. 当日は鋼板を巻き付けて溶接する補修が進行中で(図6),せん断破壊した柱 の様子はもう見ることができなかった. 補修方法はまずエポキシ樹脂を注入,鋼板を巻き付けて溶接し,隙間に無収縮 モルタルを流し込むとのこと.
観測点設置場所の諸機関には便宜をはかっていただきました.
なお,被害調査の詳細については
こちら をご覧ください.