東大地震研・地震火山災害部門
2003年09月29日
2003年10月28日
2004年03月03日
強震観測波形とGPSによる地震時の水平変動データを用いて断層面上でのすべり分布を推定した.
破壊開始点(震源)の震央は気象庁発表のもの(41°46.78′N,144°4.71′E)
に設定した.
深さは42kmと発表されたが,この深さを含めていくつかの深さでのインバージョ
ンを行い,観測波形と理論波形との一致度や震源域のプレート上面の深さを考
慮して25kmとした.
断層面は
EIC地震学ノートNo.139 をもとに低角逆断層(走向:230°,傾斜:20°)とした. 観測記録は0.05〜0.2Hzのフィルタをかけ積分して解析に使用した.
また,グリーン関数は地中観測点であることを考慮して計算した. 断層面の地表投影と観測記録を利用した強震観測点(KiK-net地中記録11点)
を図1に示す.
図には解析に使用したGPS観測点も示した.なお,地震時の水平変動データは宮崎・加藤(2003)によるものである.
図1.仮定した断層面および記録を利用したKiK-net観測点(●)とGPS観測点(+).
図2に結果のすべり分布を示す(左が北東,上が断層上端,上盤側のすべり). 破壊開始点★(strike=0km,dip=0kmの地点)から深 い方向に向かって破壊が伝播して,深さ40km付近で7.1m程度の最大すべりを生 じたと考えられる. 全体の地震モーメントは2.2×1021Nm(Mw 8.2)であり, EIC地震学ノートNo.139の結果よりやや大きな値である.
図2.ジョイントインバージョンにより得られたすべり分布.
主要なアスペリティはほぼ断層中央部の1つである.断層東部やや大きなすべりが見られるがさらに検討が必要である.断層北東部にすべりが延びているが,これは強震動のみの解析からも見られており,実際に存在している可能性が高い.
図3.水平面に投影したすべり分布.
図4にはスナップショットを示す.破壊開始点付近では地震発生から4〜5秒程度は大きなすべりが生じていない.その後深部に向かって破壊が伝播する.断層下端には破壊開始後30秒弱で達しており,破壊開始後しばらくは破壊が進展していないことを考えると,破壊伝播速度 は平均で4.0km/s程度でありさらに高速で伝播している箇所も存在していると思われる.これは震源付近のS波速度とほぼ同じ値である.
図4.スナップショット
今回のジョイントインバージョンの結果について、EPSに投稿中の論文はこちらからダウンロードできます.
(纐纈・引間)
規模の大きなプレート間地震,遠い震央距離などにより,宮城県沖の地震(本 年5月)のような異常な短周期地震動は発生せず,多くの観測点で加速度では やや長周期帯域から数Hzを中心とする強震動となった. 浦河でのK-NET記録では加速度スペクトルが0〜4Hzで大きな振幅になってい るが,宮城県沖地震による陸前高田(KiK-net地表)の記録では5Hzより高周波 がスペクトルの中心になっている.
図3.宮城県沖の地震との加速度スペクトルの比較.
苫小牧市の出光興産製油所における石油タンクの損傷には,勇払平野で発達す るやや長周期の表面波(図4)が大きく影響していると想像される.
図4.K-NET苫小牧観測点と港湾技研・苫小牧港観測点における本震の速度記録 (平野手前の門別・静内でのK-NET記録と比較した).
図5.勇払平野の臨時強震観測点◆(●はK-NET観測点).
(この項,東工大・山中浩明さんの示唆が参考になった)
9月27〜29日に筑波大機能工学系,新潟大工学部,東大地震研のチームで,大 きな計測震度が観測されたK-NET, KiK-netの15観測点周辺の被害調査を行った. 地震動のスペクトルはバラエティに富んでおり,長周期成分を多く含んでいた 地点(池田,標津など)では被災家屋がかなり見られた. また,特異な地震動を観測した地点,上述の音別町直別や厚真町富野,大樹 町などでは図6のような被害が出ている. しかし,メディア報道でも言われているように,それ以外の地点の建物被害は 少なかった. 上述のように全般的に見れば長周期成分の多い今回の地震動では,宮城県沖の 地震などに比べ大きめの被害が出ていることを予想していた. しかし,格段に大きい被害ということはなく,この点はさらに検討を進める必 要がある.
図6.直別・厚真・大樹観測点付近の建物被害.
図7.KiK-net豊頃観測点付近の道路陥没.
被害調査の詳細については こちら をご覧ください.