震源の解析
おおもとの震源は当然,地震波や地震動に大きな影響を及ぼします.
兵庫県南部地震(1995年)を例に取れば,
阪神・淡路大震災をもたらした
地震動が「ゆっくりした揺れで十数秒しか続かない」ことに驚かさ
れました(図2).
われわれはその原因が,断層破壊の進行方向で断層各部からの地震
波が重なり合って大きな地震波が形成される,
指向性(ディレクティビティ)の現象にあることを明らかにしました
(図3. 纐纈, 1996;
Yoshida et al., 1996).
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図2. 神戸大学(上)と神戸海洋気象台(中)における1995年兵
庫県南部地震の地震動を,釧路気象台における1993年釧路沖地震の地震動(下)
と比較しました.
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図3.
(a) 震源が点なら揺れの方向は対角線で区切られた4象限型パターンを示しま
す.
(b)ところが震源は広さのある断層で,そのすべりは一点で始まり秒速数km
で広がります.
(c) すると断層各部から出た地震波は時間差を持って重なり合い,
重なり方は方位で異なるので揺れの大きさに指向性が現れます.
また揺れはゆっくりとした形になります.
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この地震では複雑な地下構造(図4)が地震動に大きく影響したこともわ
かったので,それを考慮した地震動のシミュレーション法も開発しました.
三次元地下構造で計算した地震動を用いれば,断層モデルの解析結果も変化して,
より高精度なものになります(図5).
x = 20km付近が神戸市街地の直下に相当し,高精度のモデル
上図)ではそこで
2m以上の断層すべりが復元されています.
これにより地震学的解析結果と阪神大震災の被害分布の対応がより明確になりま
した(纐纈・菊地, 2003).
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図4. 神戸付近の三次元地下構造(基盤の形状).
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図5. 三次元構造での断層モデル(上)と一次元構造での断層モデ
ル(下).
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地下構造の解析
こうした研究を行う上で重要なのは,地球の内部構造,特に
身近にあって地震波・地震動に大きな影響を及ぼす地殻やプレート,
あるいはそれらを覆う堆積層の構造を解明することです.
そのために地震波のレイトレーシング法を開発したり
(Koketsu and Sekine, 1998),
日本列島下のS波速度やQ値のトモグラフィ解析を行いました
(図6).
また,地震探査と重力探査のデータを併せてトモグラフィ解析する手法も開発し
て,大阪平野や関東平野の精密な地下構造を明らかにしました(図4,図7.
Koketsu and Higashi, 1992;
Afnimar et al., 2002).
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図6. 深さ40kmのQ値分布(赤いほど減衰大).
火山帯に沿って低Q,プレートの所で高Qが見える.
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図7. 関東平野の三次元地下構造(基盤の形状).
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強震動の観測とシミュレーション
地震波・地震動の研究も,その原動力となるのは観測です.
強震動が震源域でいかに形成されるかを明らかにするため,
伊東沖の群発地震域や伊豆・駿河湾地域,首都圏南部などで強
震観測を行っています.
2000年三宅島噴火に伴う群発地震や2003年十勝沖地震では,
伊豆諸島や長周期地震動の発生した苫小牧周辺に臨時の強震観測網を展開しまし
た(菊地・他, 2001).
また,関東平野には各種機関の強震観測点が約600点あります
が,そのデータを広く収集するシステム(SK-net,
http://www.sknet.eri.u-tokyo.ac.jp/)を地震予知情報センターと共
同で開発し,平野内を地震動がいかに伝わっていくかを明らかにしました.
西の山側に比べて東京湾岸では伝わる速度が非常に遅く,地震動の波面が山側の
波面からどんどん離れてしまいます.
この分離を補うように新たな斜めの波面が現れて,平野を横切っていくのが見えま
す(図8, Koketsu and Kikuchi, 2000).
さらには,図6の三次元地下構造に対して強震動シミュレーション
(Furumura et al., 2003;
Koketsu et al., 2004)を行い,
この観測事実がシミュレーションでもほぼ再現できることを確認しました(図9).
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図8. 伊豆半島東方沖の地震(星印)から地震動が関東平野を伝
わる様子.
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図9. 地震動伝播の観測(Obs)とシミュレーション(Sim)の比較.
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