応用地震学研究室
纐纈 一起 こうけつ かずき慶應義塾大学SFC研究所東京大学地震研究所

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作られた年の順に公開のコードやデータを紹介します.
  1. reflectivity法による地震動合成(1984~1985年)
  2. Etermと「MS-DOS」(1986~1989年)
  3. pseudo-bending法によるレイトレーシング(1991~1998年)
  4. 日本付近のおもな被害地震年代表(2001年~)
  5. 全国地下構造モデル(2008年~)
  6. カトマンズ盆地とその周辺の地下構造(2020~2024年)


reflectivity法による地震動合成

reflectivity法に基づいて水平成層構造(1次元構造)内の点震源による完全な地震動を計算するためのFortranコードを開発しました(Kohketsu, 1985, J. Phys. Earth, 33, 121-131,図1).コードやサンプル入力データなどのパッケージを長くftp.eri.u-tokyo.ac.jpで公開していますが,下記にも置きました.論文に必要にして十分なことが書かれていますが,理論や定式化のより詳細な説明は『地震動の物理学』の2.2節や3.1節にあります.また,デモンストレーションとしてCygwin(Windows上のLinux環境)でコードをコンパイルし,ふたつのサンプルデータを用いて地震動を計算した結果(波形が下図)のパッケージも置きました.

図1. Kohketsu (1985)によるJournal of Physics of the Earth論文の冒頭.


Etermと「MS-DOS」

図2の寄稿に書きましたように,助手時代には担当していた業務や研究とは別に,「コンピュータに強く関連する担当業務と、生来のオタク的性格が相俟って、当時創成期だった『パソコン』を業務に生かす、みたいなこともやって」いました.その中でEtermと呼ぶ,大型計算機TSS への通信ソフトを開発し,東大大型計算機センターのセンターニュースで公表したところ(纐纈, 1986など),非常に多数のユーザが得られ,他大学の大型計算機センターでは複数の派生版が作られました.
そのため,大型計算機センター長会議で評価され,1990年のプログラム創造賞をいただきました.ただし,通信や画面入出力は当時主流だったNECのパソコンPC-9800シリーズのハードウェアに強く依存しており,現在のPCではWindowsのコマンドプロンプトでも動作しません.しかし,歴史的な価値はあると思われますので,いくつかの版のC言語やアセンブラのソースコードを下記に置いておきます.
Etermの開発で得た知識や経験に基づいて,当時のパソコンのOSであるMS-DOSの構造やプログラムとのインタフェースを解説するという観点で書いたものが,共立出版のOSシリーズ第4巻「MS-DOS」です.1988年に初版ですが,いまだに中古品がアマゾンのサイトにあがっており,「MS-DOSに関する解説書の金字塔」というカスタマーレビューをもらっています.その中のサンプルプログラムのC言語ソースコードも同じく下記に置きました.

図2. CIDIRニュースレター39号の「鷹野先生のご退職に寄せて」への寄稿.


pseudo-bending法によるレイトレーシング

pseudo-bending法に基づいて地球の球座標系おける地震波レイトレーシングを行うためのFortranコードを開発しました(Koketsu and Sekine, 1998, Geophys. J. Int., 132, 339-346,図3).連続的な構造と不連続面のある構造においてレイトレーシングを行うパッケージを下記に置きました.それらにはCygwin(Windows上のLinux環境)でコードをコンパイルし実行した結果が含まれています(前者の中の波線が下図).論文に必要にして十分なことが書かれていますが,理論や定式化のより詳細な説明は『地震動の物理学』の3.2.2~3.2.3節にあります.

図3. Koketsu & Sekine (1998)によるGeophysical Journal International論文の冒頭.


日本付近のおもな被害地震年代表(2024年版)

表の説明文は次の通りです.

 有史以来のおもな被害地震を選んだ.年月日,震央の位置,MJ相当のマグニチュード(記号M),地域は,1884 年までは『日本被害地震総覧』(599–2012,宇佐美・他,2013)と『地震活動総説』(宇津,1999),1885 年から1918 年までは『地震の事典』(第2版の「日本の主な地震の表」,茅野・宇津,2001)に基づき,他の研究成果も取り入れた.1919 年以降は気象庁が月報などで公開した値である.年月日は最初に西暦(常にグレゴリオ暦),( )内に日本暦を示した.
 地域は1884 年までは被災地等であり,1885 年以降は震央地名(1919 年以降は気象庁の地震情報の区分)を 表す.ただし,*印は当時の気象庁震央地名.3などの数字は宇津 の被害等級である.被害摘要は旧版被害地震年代表や『日本被害地震総覧』,『地震活動総説』,『地震の事 典』,消防庁災害情報などをもとに記述した.1996 年以降の震度は計測震度.関連死を死者数に含めず( ) 内に記した.全壊,半壊などは棟数を表す.1872 年以前の記事に現れる日付は日本暦に対応する.記事の最後 の[ ]内は今村・飯田による津波規模である.被害情報は原則,5年経過で確定とする.
 平成17 年版より地震の選択基準を原則「死者1 名以上または家屋等の全壊(潰)1以上または津波規模1以上」とし1885 年まで遡って適用した.また,平成23年版よりグローバルCMT プロジェクトによるモーメントマグニチュードを記号Mwとともに併記した.ただし,*印は防災科研や文献の値.遠地津波の項にある記号Msは震源の表面波マグニチュード.被害等級,津波規模,各種マグニチュードについては地震関係公式諸表を参照.名称はおもに『地震学』(第3 版,宇津,2001)に従ったが,誤った元号を含むときはそれを日本暦に< >付きで追記した.1960年以降は気象庁命名のものから年などを除いたもの.

以下のリンクに表を5つに分けてHTML表示したものを置きました.上段が歴史地震部分,下段は近現代部分.

図4. 日本付近のおもな被害地震の震央(1884年以前).1884年以前の歴史地震部分において,緯度・経度が決まっている被害地震の震央を地図に示した.Mが未決定の場合は6.0未満の場合と同じ大きさとした.



図5. 日本付近のおもな被害地震の震央(1885年以降).

(監修:纐纈一起,慶應義塾大学SFC研究所)


全国地下構造モデル

日本列島は,さまざまなプレートが沈み込む複雑な構造環境にあり,その都市域のほとんどは堆積盆地に位置しています. これらは三次元的に複雑な速度構造につながり,地震から都市部への地震波の伝播に大きな影響を与えます.したがって,日本列島全体の三次元速度構造を決定することは,長周期地震動のシミュレーションとその地震ハザード評価にとって重要です.屈折法/反射法探査,重力探査,表層地質,ボアホール検層データ,微動探査,地震動記録などさまざまな種類の広範なデータセットを同時あるいは順次使用して,日本における広域な3次元速度構造をモデル化するための標準的な手順を既に提案しています(Koketsu et al., 2009).その後,この手順を2009年に東北日本および中部日本に適用し,2011 年には西南日本に適用しました.さらに,これらの地域モデルを組み合わせて2012年に,全国1次地下構造モデル(Japan Integrated Velocity Structure Model Version 1)の旧版を構築しました.この旧版の本体は地震本部のウェブにありますが,そのリンク先を含めた使い方などの情報のパッケージを下記の1番目に置きました.
ただし,旧版は,2001年度まで使われていた日本測地系(“Tokyo Datum”)の位置情報で作られており,時代遅れのものになっています.そこで2002年度以降に採用されている,国際地球基準座標系(ITRF)に基づいた世界測地系(“Japanese Geodetic Datum 2000”)の位置情報で作り直した改訂版を下記の2番目に置きました.改訂版の東半分における基盤層(VS 3.2 km/s)の上面の深さ分布を,世界測地系の日本地図に重ね描いたものが図6右です.これを,旧版のものと日本測地系の日本地図を重ね描いた図6左と比較すると,違いはほとんど見られないので測地系の変換は正しく行われたと判断されます.
なお,モデルの構築や測地系の変換には多点のクリギング補間を用いましたが,周囲4点による線形補間でも深さの誤差は1 m未満であることは確認してありますので,モデルを用いるときは線形補間も利用可能です.


図6. 旧版(日本測地系;左)および改訂版(世界測地系;右)の東半分における基盤層(VS 3.2 km/s)の上面の深さ分布.


カトマンズ盆地及びその周辺の地下構造

ネパールは地震が多い国で,首都はカトマンズ盆地にあります.したがって,そこでの地震ハザードを正確に評価することが重要であり,そのような評価には盆地内およびその周辺の正確な地下構造モデルに基づく地震動シミュレーションが不可欠です. インドプレートとユーラシアプレートの衝突によりヒマラヤ造山運動が起こり,多くの谷や盆地が形成されています.その中で最大のものはカトマンズ盆地であり,この盆地はバグマティ川とその支流からの堆積物で満たされています.古カトマンズ湖は100万年前にバグマティ川の堰き止めによって形成され,1万2000年前に干上がりました(Sakai et al., 2016).この地質史の結果,カトマンズ盆地の地下構造は三次元的に複雑なものになりました. また,プレートの衝突によりインドのリソスフェアはMain Himalayan Thrustに沿ってネパールの下にアンダースラストしており,そこから分岐したMain Frontal Thrustにおいて地表面に達しています(図7のMFT).このアンダースラストは地震を発生させ,カトマンズ盆地周辺の地下構造も三次元的に複雑にしています.そこで
Koketsu et al. (2024)は多様なデータセットと情報を使用して,カトマンズ盆地とその周辺の3次元地下構造モデルを構築しました.




図7. カトマンズ盆地周辺の地下構造の以前のモデルと構築されたモデル(Koketsu et al. (2024)のFig. 6.カラースケール数字の不具合は修正).


2005年08月04日
2009年07月08日
2023年01月16日
2024年01月09日
2023/02/02から2852 (2)